帰ろう/藤井風
初めての記事は、藤井風さんの帰ろうです。
早速、気になった部分を順番に紹介していきます。
イントロ
ピアノで、いきなりガツンとDM7で印象付けてます。「この曲は気持ちいいけど、一筋縄では聴けないぞ」って曲の自己紹介の役割を果たしている、そんな音だと思います。
イントロの2週目始めでは、同じくDM7を鳴らしますが、2オクターブ分離れたDとC♯が強く鳴ります。このDとC♯、実は2オクターブ離さずに鍵盤上で見ると隣り合う音なんですね。一歩間違えれば不協和音になりかねません。
ただ、今回はDM7の再現ですから、予期せぬDとC♯ではないのですんなり聴けるんです。「これ、進研ゼミでやったところだ!」と同じです。
……と気持ちよく聴いていると、イントロの最後、ピアノで美味しく音を上に運ばせてEM7(9)を伸ばしたあとに、最後まさかのE7sus4を鳴らします。
Eだけでも続けられるところに7を足してEM7、さらにおしゃれにするために9を追加、これだけで次のAにつなげる足場はできあがってるんです。そこにダメ押しでE7sus4を添えます。はぁ~、おしゃれ。
……気付きましたか?
ここまでで取り上げたコード、全部7thついてます。
もっと言えば、実はイントロのコード全部に7thついてます。おしゃれの化け物か?
Aメロ
7thの化け物は続きます。先ほどイントロ部で
次のAにつなげる足場
と書きましたが、これはこの曲のキーがAメジャーだから、Aメロの初めのコードはAだろうという予測なんです(たまたまAが重なっていて読みづらい)。
その気持ちで迎えたAメロ初のコード、
知ってました、そうですよね、7thの化け物ですもん。失礼しました。
歌詞は、「あなたは夕日に溶けて わたしは夜明けに消えて」。韻踏んでます。好き。
しかもシンコペーション使ってます。なおかつ、ジグザグに音を移動させながらだんだんと下がってます。一筋縄では聴けません。
続いて、「それが運命だね」です。
「めい」の部分は、Dm6です。
この6th、Bの音ですが、「め」の音がCなので、実は隣り合う音です。
俺が曲を作るなら安直にDM7にしちゃうだろうし、ちょっとおしゃれにする人でもDm7までは浮かぶコードです。では、なぜここでDm6にしたのでしょうか。それは、6thに切なくさせる効果があるからです。
ここでは「もう二度と交わらない運命」であることを歌っているので、寂しい気持ちにさせたいわけです。考えてるなぁ。考えてなくて6thにしてたら化け物だなぁ。
これを受けて、「だ」の部分です。
(ここはDm6のあとだからEが来るな)と思って聴くと、E7(9,11)が来ます。待って待って、盛りすぎ。
そのまま「ね」でE7(♭9)が登場します。何なん? ジャズなん? 好き。
もう一度書きますが、6thや9,11のテンションコードを使う意図は「それが運命だね」を切なくさせるためです。切なすぎる。
Bメロ
転調します。
この曲のキーがAメジャー
だと書きましたが、Cメジャーに変わりました。
Aメロ最後はE7(♭9)ですが、このコードの役割としては、AメジャーとCメジャーをつなげるための渡し船です。
ここから8ビートを刻みだします。心臓の鼓動とも、走っている駆け足とも受け取れると思います。追いかけてるのか追われているのか、どちらなのでしょう。
ちなみに、ここのコード進行はすごくシンプルにすると4321進行です。懐かしさを感じさせる、あるいは穏やかさ・安定を感じさせる役割があると思われます。
歌詞ではさらっとすごいことを言ってますね。
「それじゃ それじゃ またね 少年の瞳は汚れ」。
今まで生きていて「またね」と「汚れ」で韻を踏んだこと、ありますか? 好き。
サビ
Bメロからの「忘れないから」を受けて、「ら」の母音「あ」を伸ばしています。
ここ、本当に天才です。「ら」はEの音で、伸ばす間に3つもコードを使ってます。
なんじゃこりゃ。聴き取るのに2億回かかったわ。このコード進行が泣けます。どうしたらこんな進行思いつくの。好き。
ほんで、サビの初めの音が9thで始まるのって、めちゃおしゃれなんですけど難しいんです。歌うのが。
なのでサビ入りで9thを使うことは多くないと思うんですけど、パッと浮かぶサビ入り9th曲がいくつかありまして。
aikoのボーイフレンドです。「あ~」って叫びながらテトラポッド登るやつ。
あとはこれ。
こちらもサビの「あ~」が9thです。
サビ入り9th曲、集めたいな。意外といっぱいあったりして。
なんだかんだで、サビでまたAメジャーキーに戻ってきます。まるでCメジャーキーの部分が過去回想であるかのように。
しかもよく聴いてほしいのが、サビの2拍目です。「ああ」の二つ目の「あ」を伸ばしている部分です。
Bメロではあれだけストリングスとかベースとかで露骨にリズムを刻んでいたのに、サビの2拍目の区切りでは何も音を追加しません。これ、浮遊感を与えているので、聴き手としては一瞬戸惑うんですね。「あれ、あるはずの音(区切る音)がないぞ」と。
そのサビ始めの歌詞が「ああ 全て忘れて帰ろう ああ 全て流して帰ろう」。韻。好き。
ここも実は、Bメロで取り上げた4321進行に似ています。というか、Bメロのコード進行を移調して、よりおしゃれを追加したらできあがった感じ。好き。
そのあとの歌詞「あの傷は疼けど この渇き癒えねど」。韻踏んでます。
ここで注意して聴いてほしいのは、シンコペーションです。リズムを複雑にすることで、「ここで言ってることは簡単な問題ではないぞ」ということを暗に示しています。
間奏
Aメジャーキーでサビが終わって、ピアノの伴奏で大人しく続くのかと思いきや、シンセベースとストリングスで盛り上げてくる。そういうところ。好き。
2番Aメロ
言及しておきたい歌詞は「少し背中が軽くなった」です。
初めて聴いたときは「少し背中が明るくなった」に聴こえました。後光みたいなものでわたしが神様になったのかと思いました。そういう意図もあってほしい。
2番サビ
「去り際の時に何が持っていけるの」の「何が持っていけるの」の部分、
「憎みあいの果てに何が生まれるの」の「何が生まれるの」の部分、
盛り上げ方がかっこよすぎる……
最後、
「わたし、わたしが先に忘れよぉ~ぉう~ おぉ~おぉ~おっ お~お~おぉ~へぇ~」
好き。
……気付いたら、一曲聴き終わってしまいました。もう一回聴こう。よすぎる。
全人類聴いて。